第140回特別教室山口太郎「北欧ヴィンテージ家具入門~北欧の国々が生み出した家具や雑貨のデザインとその背景を学ぶ〜」レポート

講師 北欧家具talo代表 山口 太郎

会場 熊澤酒造

日程 2025年2月9日

熊澤酒造の空間を彩る北欧家具や照明。その多くは北欧ヴィンテージ家具の買付け・販売を行う秦野の「北欧家具talo」さんにお世話になっています。

今回の暮らしの教室では「北欧家具talo」代表の山口太郎さんをお招きし実物を手に取りながら、その背景やフィンランドをはじめとした北欧の暮らしにスポットを当てお話しいただきました。

代表の山口太郎さんは、日本とフィンランドを行き来しながら、北欧家具の魅力を伝え続けています。実際に現地での生活を通じて得た知見を交えながらお話をしてくださいました。
北欧の国々は、それぞれ異なる環境、文化、価値観を持ち、その違いが家具のデザインにも表れています。

国ごとの個性

特徴的なフィンランドとデンマークの家具ものつくりの違いをお話しいただきました。

フィンランド「暮らしに寄り添う優しさ」

・機能性と合理性を第一に考えるデザイン

・限られたスペースでも快適に使えるよう工夫された形

・「みんなが使いやすいこと」が大切

フィンランドの家具は、どこに置いても違和感なく馴染み、誰にとっても使いやすいことを重視しています。例えば、積み重ねて収納できる食器や、椅子など。輸送時に分解できる設計は、限られた空間の中で最大限の機能を発揮するための知恵ということでした。

そこには、「すべての人にとって優しいデザインを」というフィンランド人の思いやりが込められているとおっしゃいます。

代表的なデザイナー:アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto), カイ・フランク(Kaj Franck)

デンマーク – 「美しさと心地よさの追求」

・家具は芸術。どこから見ても美しくなければならない

・「心地よさ」と「造形美」が共存するデザイン

デンマークの家具は、ただ使いやすいだけではなく、その佇まい自体が空間を美しく彩るように設計されています。

デンマークの人々にとって「美しさ」は機能と同じくらい大切な要素。例えば、ロイヤルコペンハーゲンの食器は、皇室の人々が実際に使い、フィードバックを重ねながら進化してきました。

代表的なデザイナー:フィン・ユール(Finn Juhl), アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)

スウェーデン「フィンランドの実用性+デンマークの美しさ」

スウェーデンの家具は、フィンランド寄りの機能性を持ちつつ、デンマークのような美しさも兼ね備えています。分解して輸送できる設計など、実用性を意識した工夫が随所に見られます。

椅子とは、「座る」という行為以上のもの

「座り心地は、お尻ではなく“背中”で感じるもの」

座面の形状はある程度決まっていますが、背中に触れる部分のデザインは無限の可能性を持っています。だからこそ、職人やデザイナーは、背もたれの曲線や手触りにとことんこだわるのだそうです。

たとえば、デンマークの椅子は「この空間のために作られた」という特別感があります。一方、フィンランドの椅子は「どこにでも馴染み、誰でも座れる」ように考えられています。

ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner)が手がけたデンマークの名作 「Yチェア」 は、まさにその象徴。シンプルでありながら、人の手で触れたときの感触が驚くほど心地よい。山口さんは「この椅子が世界中で愛されているのは、見た目の美しさだけではなく、“触れたときの安心感”があるから」とおっしゃっていました。

それぞれの国のデザインには、人々の価値観や生活の哲学が映し出されているようです。

山口太郎さんへの3つの質問

ー人生のターニングポイントは?

山口さんは、かつて日本で会社員として働いていました。

しかし、バブル崩壊後、傷心旅行で訪れたフィンランドで「ここで生きていけたら幸せになれるかもしれない」と直感し、すべてをかけて北欧家具の輸入を始めました。

しかし、最初の仕入れは大失敗。全財産をかけた荷物は、なんと届かなかったのです。

普通ならここで諦めてしまうかもしれません。

それでも山口さんは、その時の取引先の人々との縁を大切にし、今日までフィンランドと日本をつなぐ架け橋として活動を続けられています。

ー幸せのものさしとは?

「幸せはフィンランドにある。」

ーこれからの未来に望むことは?

「フィンランドが自分を受け入れてくれたから、今の自分がある。だからこそ、フィンランドで出会った人々を幸せにしたい。恩返しをしていきたい。」

まとめ

北欧家具は、ただの「モノ」ではなく、長い時間をかけて育まれた文化、そして人々の暮らしの知恵など「どんなふうに生きるのか」という哲学が詰まっているようでした。

北欧のデザインに触れることで、私たちも家具や日々使うものを「ただの道具」としてではなく、人生や生活を彩る「パートナー」として向き合えるのではないでしょうか。

そうする視点を持てば、暮らしが少しずつ豊かに変わっていくのかもしれません。

講師プロフィール:北欧家具talo代表 山口 太郎 https://www.talo.tv/
1973年神奈川県生まれ。51歳。
20代半ばのフィンランド旅行をきっかけにヴィンテージ北欧家具の販売を開始。現在はフィンランドにオフィスを開設し、年に10回以上渡航し年間120日以上を北欧で過ごす。
現地での生活を楽しみつつ文化を理解し、必ず自身で触れた商品を輸入し販売を行うスタイルを続けている。

トップへ戻る