特別教室147 佐野大介「森の声に、耳をすます。‐空師、佐野大介さんと考える、森との関わり方‐」レポート

講師 佐野大介 (空師)

会場 熊澤酒造

日程 10/26 15:00-17:00

第147回暮らしの教室特別教室は、佐野森業 代表で空師という専門職である、佐野大介さんに熊澤酒造にお越しいただき、開催しました。

まず、「空師」とは?と思う方も多いかもしれません。空師とは、高木に上り伐採を行うというお仕事。江戸の頃に生まれた言葉で、木より高いもの(建物)がなかった頃に、空を渡っているかのように見えることから空師と呼ばれたそうです。

特に国家資格などではなく、「私は空師」と言ってしまえば空師かもしれないのですが、佐野さんは林業で木を伐採する人とは異なり、「木」そのものや環境を見て、人が困ったり暮らしに影響が出てしまい切らなくてはいけない部分を木にお願いして切らせてもらっているという自負の下、空師と名乗っているのだそうです。

空師のお仕事は、命の危険もありながら、それでも日々木に対する深い愛情を以てされているということが伝わりました。

「木を伐採すことができる。でもそれ以上に、気を残す人でありたい」

そんな思いの中、佐野さんはお仕事をされています。そういったご紹介の後、佐野さんがお仕事を通して出会った様々な木のお話しに移って行きました。

佐野さんが多くく対峙されるのが、民家を始め、神社や学校・街路樹などの木々で、昨今、落ち葉がクレームになることがとても増えているのだとか。落ち葉は、コンクリートの上では邪魔者になってしまいますが、土を成型する大切なものであり、木や様々な生物が暮らすにはとても重要なものなので、ここ最近の落ち葉のクレームの急激な増加にとても胸を痛めていると仰るご様子が冒頭での印象に残っています。

大磯と長野の2拠点を行き来しながら、様々なお仕事で出会う木々や問題にお話は進んでいきました。そのお話しの1つ1つに、空師さんでしか見えない視点や気づき、自然と人との暮らしについてのお考えがあり、私たちの日々の暮らしやこれからの社会のためにも参考になるお話がたくさんありました。

伐採してほしいと言われて出会った木が、その地域の水を司っていて、安易に伐採してしまうと大変なことになってしまうというケースなど、佐野さんのお仕事が対峙した木の周辺だけではなく、広い地域や後世の子供たちなどの生活や多くの生物の命を救っていると感じました。

今回この講演のためにお越しいただいた会場の熊澤酒造も、たくさんの木があり土が感じられ、その木々や緑地帯がその地域の台風などの強い風や災害から守ってくれているということが、佐野さんのご経験からは感じられるそうです。また、訪れる方が良く「涼しい」と仰るというエピソードからも、木々の水蒸気が風を起こすなどして、真夏に暑くなりすぎないなどの私たちにとっての心地よさを作っていくれていると思いますというお話しから、何気ないその場所の自然の生き物たちから、多くの恩恵を受けているのだということを、改めて強く感じる機会となりました。

上の写真は、よく早朝に森に入った際に見られる葉にたくさんの水蒸気を含んだ姿なのですが、ここ数年植物に乾燥が進み、そういった様子が減り、見られなくなってきているというお話でした。

2025年には深刻な水不足に見舞われる河川流域の人口が世界人口の40%以上に達すると予測がされる中、佐野さんも日本の木々の水がなくなり、ひどい乾燥に見舞われていると強く感じていらっしゃるそうです。

そして、佐野さんが暮らしている長野県の伊那郡辰野町の「にれ沢」という地域に、2ヘクタールの耕作放棄地があり、2019年に太陽光発電設備の計画があるとわかり、反対運動をされたお話しへ。

複数の地主さんに、この土地の川の水がきれいな水を保ち、田んぼの稲を育むなど、多大な影響があることを1から丁寧に説明し、「私たちに土地を貸してください。手入れをして美しい環境を取り戻します。」と説得。地主さんたちが同意してくれ、地元の皆さの絶大な協力もあって計画は白紙となり、2020年に「にれ沢蝶の森」として里山整備の会を発足させたそうです。

こうした活動も地域の人や生き物を始め、他の地域に住む私たちの未来にもつながっているのではないでしょうか。

ぜひ、こちらの「にれ沢蝶の森」の活動は会員も募集していますので、気になる方はチェックしてみてください。

最後のこれからの社会に望むことのお話しを通じて、一人では大きな変化を作ることは難しいけれど一人一人の小さな良い方向性や小さな点が、たくさん良い方向性に繋がり、増えてくれるといいなと仰るご様子が、たくさんの方を惹きつけ良い方向に向かう大きなものを作っていらっしゃるなと思いました。

佐野さんから皆さんへ、ぜひ地面に触れる機会があれば触れ、また植物に触れたりもしてみて下さい。というメッセージでお話しは終了となりました。

《暮らしの教室から3つの質問》

●佐野さんのターニングポイント 

若い時は誰しもたくさん悩むと思うのですが、そういった悩みの中で「どこかここだという場所に暮らしたい」という想いがずっとあり、探しながら問題のない場所はないのだということがわかっていきました。また、写真家という活動を通して評価を頂いていく中、大きな広告に自分の写真が使われるのを、駅のホームで見た時ふと、「大量消費をしながら生きて行くのではなく、自然の方へ寄り添いたい」という気持ちに気づき、空師という職業に向かって行ったこと。そして、空師という仕事を通して自分の場所と繋がっていくことができるようになったこと。

●佐野さんの幸せのモノサシ 

仕事が好きで、その仕事が地主さんなどの多くの人に喜ばれること。その土地と繋がっていることを感じられる時。この星のカケラとして、この星で生まれ還って行くという流れに自分があることを感じる時。

●これからの社会、地域がこういうふうになってほしい 

自分一人で世界を変えることは難しいかもしれないけれど、自分自身を見直しながら、できるだけいい方向に向かい、その繋がりや他の人の良い方向が少しでもいい方向に向かって行けるような世界。お酒作りだったり、お米作りだったり、それぞれの小さな点が良くなって行ける社会。

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佐野大介

1974年、神奈川県生まれ。
佐野森業、代表。空師。

東京、神奈川の神社や森の生き物に配慮した管理をしつつ、神奈川と長野の二拠点生活。環境に負担の少ない仕事、暮らしを模索中、家族6人のお米を自給している。築250年茅葺古民家改修中。

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