特別教室132 三島 由樹「内と外、人と人をつなぐランドスケープデザイン」レポート

講師 三島 由樹(株式会社フォルク代表取締役)

会場 旧三福

日程 2024/05/12(日) 14:00 - 16:00(受付 13:45-)

5月の特別教室にお招きしたのは、ランドスケープデザイナーであり株式会社フォルク代表取締役の三島由樹さんです。三島さんの学生時代から今に至るまで、どんなことを考えながら園芸(園藝)や庭、そして人々に向き合ってきたか、じっくりお聞きすることができました。

この日、「使う庭」という言葉がとても印象的でした。庭には「見る庭(garden)」と「使う庭(yard)」とがあって、三島さんは「使う庭」に興味を持って活動して来られたそう。使う庭って例えばどんな庭だろう…?と追いかけながらお話を聞いていきました。

三島さんが手掛けてきたさまざまな「使う庭」のなかでも、今まさに取り組まれているのが代表理事を務める「シモキタ園藝部」です。

小田急線の線路跡地にできた「シモキタ線路街」を中心に活動するコミュニティで、地域の皆さん(地域外の方もウェルカム!)が自らまちの植物を守り育てていく「緑の自治」を目的としています。パンフレットには「緑と人、人と人とが関わり合う風景と文化をつくるため、緑のお手入れや植物の営みを生かしたイベントなどを行っています」とあります。

ここで三島さんが目指したのは「さわれる緑」。管理業者による「維持管理」のされた緑ではなく、地域内外の人々による「活用管理」をされている緑です。単に「まちの景観を美しく保ちましょう」とか「下北沢に緑を増やしましょう」ということだけが目的ではないから、下北沢の緑をどんなふうに使いたいか、ここでどんなことがしたいか、仲間たちで相談して実行していきます。ハーブを育ててハーブティーをつくったり、コンポストを運営したり、養蜂家さんが下北生まれのはちみつ「シモキタハニー」を商品化したり…まさに庭が使われ、緑にみんながさわれる取り組みがメンバーさん発でどんどん生まれているのです。

あぁそうか、これが「使う庭」ってことなんだ!なんだか、このシモキタ園藝部というチームと取り組みそのものが、まるでお庭みたいだなぁ、と思いました。意図して植えたものや丁寧にお世話して育っていく植物もあれば、思いも寄らない新しい植物が芽生えたり虫や動物からの影響を受けたり…そうしてそこにあるすべてのものが作用し合って、エネルギーが循環して庭として形作られていく。そんな有機的な営みが「シモキタ園藝部」にはあって、そこに美しさを感じました。こんな人たちのいるまち、こんな庭のあるまちって、自然と優しくて元気になっていきそう。

“緑をペットのように愛でるのではなく、まちの営みを作り直すのがランドスケープデザインなんじゃないか”

”緑は竣工して終わりではない。そこからどう楽しむか、それをどう伝えるか、どうそう思ってもらえるようにするか、が僕の仕事”

この日、三島さんがおっしゃっていた言葉ですが、これを本当に体現しておられる方だなぁ、と感じました。緑に対しても、そこにいる人に対しても、とても愛がある。緑を通してもっと何かできることがあるんじゃないか、僕らの社会はもっとよくなるんじゃないか、と探求する姿は、広く一般に知られている「ランドスケープデザイナー」の概念を越えた職業人でした。

小田原でもこんなふうに新しい文化を生み出す何かを始められたら…なんて思っていたら、なんと旧三福不動産・代表の山居が三島さんと一緒に小田原で新しいプロジェクトを企てているみたい…!いつになるかはわかりませんが、始動をお楽しみに。

《暮らしの教室から3つの質問》

●三島さんのターニングポイント
-フレデリック・ロー・オルムステッド(景観設計家)、宮本常一(民俗学者)、恩師のピーター・デル・トレディチさん(植物学者)との出会い。
-博士課程で研究に挫折したこと。そこから、研究的なことをいかに実務のなかでやっていくか、と考えるようになった。

●三島さんの幸せのものさし
どんなランドスケープが好き?って聞かれたら花火に例えている。花火ってきれいだけど、実はその花火を見ている人々の表情のほうが美しい。そんなふうに、ランドスケープのなかで動いている人たち、活動している人たちの良い表情を見るのが幸せ。

●これからの社会、地域がこういうふうになってほしい
プロフェッショナルって言葉が生まれたのは最近。プロ、アマという垣根をふっとばしたい。自分もランドスケープのプロだとは思っていないし、思わないようにしている。アマチュア(語源:熱意を持って何かをする人)の人からはむしろ教わることが多い。園藝部では、“アマチュア”をいかにつくっていくか、を目指してやっている。



三島 由樹
株式会社フォルク代表取締役 / ランドスケープデザイナー
八王子生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院GSD修了後、MVVA NYオフィス、東京大学都市工学専攻助教を経て、2015年フォルク設立。地域における文化・環境をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を各地で行っている。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
ソーシャルグリーンデザイン協会理事、シモキタ園藝部共同代表理事。八王子市まちづくりアドバイザー。主な仕事に、ajirochaya、シモキタのはら広場、芝のはらっぱ等。

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