特別教室136 橋本崇「BONUS TRACKと下北線路街の話」レポート

講師 橋本崇(小田急電鉄株式会社)

会場 旧三福

日程 2024/09/08(日)14:00 - 16:00

「下北線路街」、小田急線・下北沢駅を中心に東北沢駅から世田谷代田駅の辺りまで、小田急線の線路の地下化でできた線路跡に生まれた新しい街です。複合施設、カフェ、学生寮、温泉宿、保育所…多様な顔を持ちます。

今回お話をお聞きしたのは、この「下北線路街」のプロジェクトリーダーを務めた小田急電鉄の橋本崇さんです。小田急電鉄の社員として、エリア事業創造部に所属して沿線エリアの開発に携わってこられました。まちの小さな不動産屋さんとして地道に物件を開拓してきたわたしたち旧三福不動産にも“一緒に何かやりましょう”と長年言い続けてくださっている、どこか仲間のような気持ちでいる方です。

ドラマや漫画に出てくる“土地開発をする大手鉄道会社”って、とかく敵っぽい位置にいがち。利益が最優先で住民の生活なんて二の次、駅前のやたら立派な商業施設に入るのはチェーン店ばかり。地域の文化や絆を壊して、個性のないのっぺりしたまちに作り変えようとする…そんなふうに描かれることが多い気がします。でも「下北線路街」の開発スタンスはそんなイメージとはかけ離れたものでした。

「支援型開発=サーバント・ディベロップメント」
「下北沢エリアの街を“変える”のではなく、街を支援することを目指す」

これが小田急が掲げた開発のテーマでした。あくまで主体は地域の住民であり小さな事業者。小田急の役割は地域の持つ魅力を引き出すこと。地域に根づいた価値観を重視し、支援する立場で進めていく。そんなスタンスで開発を行ったのです。

じゃあ具体的にはどんなふうに進めていったの?という話は橋本さんが共著の本「コミュニティシップ〜下北線路街プロジェクト。挑戦する地域、応援する鉄道会社」をぜひ読んでいただきたいのですが、このプロジェクトにはすみずみまで「支援型開発」のスタンスが行き渡っていました。

特に驚いたのが、各フェーズで地域住民の方々と橋本さんたちの小田急チームが密に対話を重ねていたことです。結局は人と人。対話によって人間同士の信頼関係でものごとは進んでいく。「ここってどんなふうになったらいいですか?」「何をしたいですか?」その対話が丁寧であればあるほど、人々のまちへの愛は深くなりまちがちゃんと育っていく。
その対話は開発前だけではなく開業後も続いているそう。そして徐々に小田急⇔住民だけではなく、住民⇔住民、住民⇔事業者の対話も生まれるようになりました。当初からの対話の積み重ねがあったからこそ、下北線路街を構成する皆さんにおいて「対話する」ということが土壌としても根付いたのではないでしょうか。

よくあるそれっぽいハコモノをつくって終わりじゃなくて、人と人とのつながりまでつくってしまう。イメージにあった、あの“敵っぽい大手鉄道会社”とはぜんぜん違いました。シモキタにおける小田急の試みは“開発”というよりは“まちづくり”のほうがしっくり来ます。まちを、人の手でつくっている感じ。そこにはひとりひとりの人間がいて、ちゃんと血が通って、だからいきいきしている。
最近旧三福不動産は自分たちの役割を「路地裏マイクロディベロッパー」と表現しているのですが、橋本さんとチームの皆さんはその対極にあるような大きなプロジェクトを手掛けながら、まちに対する思いにはわたしたちのような小さなプレイヤーと共通する部分が多くあると感じます。むしろ、今回わたしたちのほうこそ学ばせてもらえることがたくさんありました。

「下北線路街」は単なる新しい商業施設の集まりではなく、下北沢というまちが長く大切にしてきた文化的で自由な空気や、新しいチャレンジをしやすい環境、地域住民の人たちが中心になってまちを育てていける仕組み…そういった”余白”のようなものを多分に含んだ場になりました。お仕着せではない、いきいきとした暮らしの営みを前提とした開発スタンスがあったからこそ、それが実現したのだと思いました。いつか小田原で橋本さんと旧三福不動産がご一緒できたら小田原がどう変化していくのか…こっそり楽しみにしていてくださいね。

《暮らしの教室から3つの質問》

●橋本さんのターニングポイント
下北沢での住民説明会で300人の前で罵倒された時。その時は大変ショックを受けたが、会の終了後に30人くらい列ができて皆さんが「自分たちもやるから、一緒に考えてくれないか」と真剣に話してくれて涙が出るほど嬉しく、衝撃的だった。

●橋本さんの幸せのものさし
子どもが好きだから、子どもがいきいき楽しんでいる姿を見ていたい。「生活とは、いきいきと生きていること」と教わったが、自分が携わったまちの人たちがそうであったら嬉しいし、それが自分の幸せ。

●これからの社会、地域がこういうふうになってほしい
今が社会が変わっていく過渡期だと感じる。10年後の社会にはいいイメージしかない。皆が助け合って、多種多様な事業が絡み合っているような。ふつうの人たちがまちの活動にたくさん関わっていたら嬉しい。



橋本崇 はしもとたかし
小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部
1973年生まれ。東京理科大学理工学部卒業後、小田急電鉄株式会社に入社。鉄道事業本部にて大規模駅改良工事、駅リニューアル工事、バリアフリー整備工事等を担当後、開発事業本部に異動し、新宿駅リニューアル工事、駅前商業施設、学生寮「NODEGROWTH湘南台」、旧社宅のリノベーション住宅「ホシノタニ団地」等の開発を担当。2017年より下北沢エリアの線路跡地「下北線路街」のプロジェクトリーダーを務める。現在は小田原・箱根担当、向ヶ丘遊園跡地開発を担当中。

→下北線路街
→BONUS TRACK

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