特別教室144 菊池友来「Sense of wonder -芳香植物のある暮らしと生き方-」レポート
講師 菊池友来(きくちゆき)
会場 熊澤酒造
日程 2025年6月22日(日)15時30分 - 17時30分

湘南と南阿蘇、ふたつの土地を行き来しながら香りにまつわる創作を続ける植物蒸留家・アロマスタイリストの菊池友来(きくち ゆき)さん。
今回の暮らしの教室では、自然と向き合いながら香りを生み出す日々や、香りがもたらす癒しと気づきについて、蒸留体験と調香クラフトワークショップを交えながら語っていただきました。

2024年から本格的にスタートした南阿蘇での活動は、菊池さんにとって大きな転機となりました。草原と森に囲まれた土地、豊かな湧き水、そして四季のうつろいを教えてくれる植物たち。「植物の方が、季節を教えてくれるんです」と語るように、日々の暮らしそのものがインスピレーションとなり、植物療法や調香の創造へとつながっています。
南阿蘇では、自ら採取した植物を、阿蘇の湧水を使って丁寧に蒸留。食べ物と同じで、旬のもの、土地のものをつかい旬の時期に蒸留を体感していただくという季節の香りを堪能する会を全国各地で開催しながら、日々素材と向き合う暮らしを続けています。
調香の道へ進んだきっかけは、孤独な子育てと産後うつの経験だったと菊池さんは振り返ります。体の弱かった娘のために、薬に頼らず自然の力でできるケアを模索するなかで出会ったアロマテラピー(芳香療法)。
憧れていた映画『魔女の宅急便』のキキの母・コキリさんのように、植物の恵みを家庭に取り入れることを目指し、20年前にはまだ一般的でなかったアロマテラピーをはじめとした自然療法を学び始めたといいます。
精油箱を“家庭の薬箱”として、暮らしに寄り添う香りを探求する日々のなかで、今では「香り」をきっかけに、教室をはじめ、イベントやSNSなどから菊池さんのもとへ自然と人が集い、つながっていくようになりました。
季節の香りを堪能すワークショップでは、「黒文字(クロモジ)」の蒸留を実演。



蒸留器や、蒸留の仕組み、そして蒸留によって取り出されるごくわずかな精油と、それを包む香り豊かな蒸留水のお話を聞かせていただき、その場でしか出会えない“一期一会”の香りに触れる貴重な時間となりました。
アロマミストのワークショップでは、調香師が使うムエット(試香紙)を使って10種の香りを試香。香りの名前を伏せたまま3〜5種を選び、オリジナルの香りのミストをつくる調香体験を実施しました。
香りを言葉にする時間では、色や人物、ストーリーなどを自由に表現。「右脳と左脳をつなぐ作業」として、見えない香りに言葉という形を与えるマインドフルネスな体験となっていました。


最後に香りの正体を明かす“答え合わせ”では、ご参加いただいた皆様それぞれの個性が光り、会場は笑顔と驚きに包まれました。
イベント中には、事前に用意していただいていた杉の蒸留水にハーブのコーディアルシロップを合わせたドリンクを全員で楽しみました。すっきりとした中にどこかウッディさを感じる深みのある蒸留水ドリンクとともに、モキチベーカーアンドスイーツで販売している酒粕プリンと酒粕クッキーをご用意。
熊澤酒造の日本酒「天青」からとれた酒粕と牛乳を合わせたやさしい味わいで、黒豆がアクセントになった酒粕プリンと、酒粕を生地に練り込み、香りを楽しんでいただける酒粕クッキー。口にしたとたん、ふわりと広がる酒粕の香りが、香りの会ならではの特別なおやつとして皆様を楽しませ、香りを味わい、自然の恵みを五感で堪能する締めくくりの時間となりました。
香りは目に見えないけれど、記憶や感情と深く結びついているもの。自然の恵みに耳を澄ませるように、香りとともにある暮らしの豊かさを、今回の教室を通してそっと感じていただけていたら嬉しく思います。


菊池さんへの3つの質問
ー人生のターニングポイントは?
母になったこと、フリーランスとして活動を始めたこと、そして南阿蘇への移住。「暮らし方、家族のあり方、価値観が大きく変わって、ようやく“自分の人生を歩んでいる”と感じられるようになった」と語ってくれました。
ー幸せのものさしとは?
「幸せを図る基準は、心がどれだけ喜んでいるか」そのために大切なのは、五感に入ってくるものが心地よいかどうか。
誰かの基準ではなく、自分の内側から湧き上がる思いに従って行動できているか、チャレンジできているか。「その瞬間瞬間を、大事にしていきたい」と語ります。
ーこれからの未来に望むことは?
「セラピスト同士のコミュニティを運営していますが、今後大切なのは“競争”ではなく、共に創るという方の“共創”」さまざまな価値観があふれる中で、自分と近い感覚を持つ人たちと、どれだけ安心してつながれる場を持てるか。
心を耕し、分かち合い、共鳴しあえる仲間との関係が、暮らしを支えてくれる。そんな小さなコミュニティが、各地に自然と広がっていく未来を思い描いているそうです。

講師プロフィール | 菊池友来(きくちゆき)
RIT inc. ディレクター / &SCENT主宰植物蒸留家•アロマスタイリスト
@rit.aromaworks
https://lit.link/ritaromaworks
熊本県生まれ。2010年より芳香•植物療法の学校をスタート。近年では植物を用いた芳香空間デザインや、商品プロデュース、季節の香料植物を用いた蒸留•調香の会を全国各地で開催している。
2020年よりセラピスト向けのブランディングコンサルとしての活動も開始。ライフスタイルにまつわる商品開発、執筆、プロデュース業を展開し、2024年熊本県南阿蘇にてアトリエを構える。プライベートでは3児の母、湘南と南阿蘇の2拠点生活中。