特別教室114 玉井洋一「建築と農のある暮らし」レポート

講師 玉井洋一(建築家、アトリエ・ワン パートナー)

会場 旧三福

日程 2022/10/02 15:00-16:30

10月の特別教室は、小田原在住で建築家の玉井洋一さん(設計事務所 アトリエ・ワン勤務、現パートナー)をお招きして旧三福にて開催しました。テーマである「建築と農のある暮らし」を軸に、現在関わっている農業のこと、アトリエ・ワンの仕事、小田原の仕事についてお話しいただきました。

「建築と農」というテーマでしたが、戦略的に農業をやっているわけではなくたまたま農業に関わっていて、そういった小さな農業への関わりも、山歩きでのみかん小屋のリサーチも、街歩きでの発見も、すべて建築の設計に繋がるんだというほど建築について考えることが好き、というのが印象的でした。

アトリエ・ワンは、建築家で大学教授でもある塚本由晴さん、貝島桃代さんが主宰する設計事務所で、大学院を卒業後2004年から働きはじめ、現在はパートナーとして設計だけでなく事務所運営などにも関わっているとのこと。

アトリエ・ワンの仕事では、暮らしの教室34で講師をしていただいた、福祉楽団の飯田大輔さんが千葉県香取市にオープンした「恋する豚研究所(2012年竣工)・栗原第一薪炭供給所1K(2018年竣工)」と、福岡県八女市の、廃校となった小学校の跡地を活用して移住希望者が里山の暮らしを体験するための賃貸集合住宅「里山ながや・星野川(2018年竣工)」について紹介していただきました。

アトリエ・ワンでは、建物の設計をするときに、都市、地方、山や海といった周辺環境、それらに関わる人やモノなどの事物連関をドローイングにするそうです。そうすることで、設計した建物が、地域コミュニティや地域資源の再生にどのように関わるのかを見える化していることが、とても興味深かったです。

恋する豚研究所の広場でのイベントの様子
栗源の里山を資源化するためのアクターネットワーク(事物連関図)

”建築家は、ただ単にかっこいい建物をつくる人ではなくて、周辺との関係を捉えて考え形にする人”という玉井さんがレクチャーの冒頭で話された言葉を思い返しました。

小田原の仕事では、旧三福不動産で土地を仲介させていただいた個人住宅「角地の浮き出窓(2020年竣工)」、小田原市の旧支所を利活用した寄木細工工房「太田木工の塀と庭(2022年竣工)」について紹介していただきました。

角地の浮き出窓 エントランスを見る
角地の浮き出窓 開放的な角地
角地の浮き出窓 出窓に並ぶサボテン
太田木工の塀と庭 正面から
太田木工の塀と庭 塀はベンチと一体化している
太田木工の塀と庭 塀には窓があって開けると街とつながる

個人住宅やたとえ塀のみであっても、設計の工夫で、その周辺がちょっと楽しくなることに感心しました。

設計の仕事はある意味時間に関係なくずっとやれてしまうが、農業は日の出とともに始まり日が暮れれば終わり季節の繰り返しもあって、そういう違う時間軸に身を置くことで暮らしが豊かになる、と玉井さんは感じているそうです。

リサーチが好きなのは、既存の事物を知ったり比べたりすることで、類似性や差異、変えられないもの/変えられるものが見えてきて気づきがあるから、ということでした。

最後に、旧三福不動産の新オフィス「旧三福ビルヂング(2022年秋リノベーション竣工予定)」に移動し、現地で直接、設計の考え方を説明していただきました。2階が新オフィス、3階がコワーキングスペースです。屋上からは、相模湾や小田原城も望めます。皆様、是非遊びにいらして下さい!

[暮らしの教室から3つの質問]

■玉井さんのターニングポイント
東日本大震災の復興支援に関わったこと。津波で街が無くなった状況を実際に見てショックを受け、そこで何ができるか真剣に向き合ったことから、自分が住む場所でも役に立ちたいと建築への向き合い方が変わった。

■幸せのモノサシ
建築が好き。ふとした風景の中に普通と少しずれた モノ・コトのあり方を発見したときに幸せを感じる。
Facebook 玉井洋一     

■これから望む社会
自分が住んでいる場所で仲間と面白いことを実践したい。すべて自分でやるのではなく、小さく関わり、他分野の多くの人と協働し、建築のスキルを活かして、暮らしを豊かにしたい。

玉井洋一(建築家、設計事務所 アトリエ・ワン勤務・現パートナー)

1977年愛知県生まれ。2007年より小田原市田島在住。設計事務所アトリエ・ワン所属。現在、同パートナー。国内外の住宅や公共施設などの設計監理を手掛ける。子どもができたこと、東日本大震災の復興支援や里山での建築に関わったことなどをきっかけに、自分が住んでいる自然豊かな小田原で何か役に立ちたいと考える。妻の実家の農業を週末やるようになり、現在は設計事務所に所属しながら個人の設計と農業を行う。最近は友人とキウイ栽培を行い、旧三福ビルヂングの改修設計を行った。

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