特別教室124 浅沼宇雄「『豆腐屋はじめました』からの14年」レポート

講師 浅沼 宇雄(湯河原十二庵 代表)

会場 旧三福

日程 2023/09/09(土)14:00 - 16:00

9月にお話を伺ったのは、今年7月に旧三福ビルヂング1Fにオープンした「十二庵キッチン」のプロデュースも手掛ける、湯河原十二庵・代表、浅沼 宇雄さんです。

昨年の「第6回全国豆腐品評会」で最優秀賞にあたる農林水産大臣賞を受賞した湯河原十二庵。日本一になったのに、浅沼さんは全然ドヤ顔をしません(する時もあるかもしれないけど、それすらチャーミングに見えそう)。ここに至るまでには計り知れない努力とこだわりと工夫があるはずなのに、それをひけらかすような言葉はまったく出てこないのです。その代わりに繰り返し聞こえてきたのは「人のために」「恩返し」「みんなで」という謙虚な言葉。応援してくれるお客さんや地元の人達、一緒に働く仲間、豆をつくる生産者さん…周りにいる人達への感謝の気持ち。

「今思うと、最初の頃って本当に今とは比べ物にならないような未熟なお豆腐を出してたんです。振り返っても反省ばっかりなんですけど、でもなぜかその頃にも“おいしい”って買い続けてくれた人たちがいて…それはなんでだったのか考えたら、おいしい大豆を使ってたからなんですよね。素材の力でなんとかお豆腐がおいしくできて、それをお客さんが喜んでくれていた。大豆がおいしかったから潰れなくて済んだんです」

「リーマンショック、東日本大震災、それから9年目には委託事業の店舗の閉店のタイミングが重なってしまったり…よくない時期もありました。でもまちのため、人のためだと思えば踏ん張りが利いたんですよね。諦めなかったら大抵のことはなんとかなるんですよ(笑)!」

どこまでも謙虚でありながら、浅沼さんの語り口はとっても明るくて楽しそう。それは“どうせなら退屈に生きるより、おもしろく生きたいよね”という浅沼さんのモットーに基づいた、生き様そのものだと感じました。

「支店を出して多店舗展開する、ってつもりはあんまりなかったんです。他でも出店しないかと誘ってもらって迷っていたけど、小田原でまたお店を出すならここ(旧三福ビルヂング)のほうが楽しいことができそうだな、と思って。お豆腐屋を始めるときに“おいしく楽しくまちおこし”をテーマに掲げたので、僕自身が楽しくやれるというのを大切にしてます」

十二庵のお豆腐はおいしい。おいしいから食べたらハッピーになる。でも、わたしたち消費者のハッピーの裏側にはきっとさらにたくさんのハッピーがあるのです。従業員さんの、大豆の生産者さんの、湯河原の人々の。

おいしいお豆腐を作っているのは間違いないけれど、浅沼さんにとってはきっとそこがゴールではないのだろうな。人生をかけて周りの人たちと幸せになっていく、そのための手段として縁あってお豆腐がぴったりハマったのかな、なんて思いました。これからも浅沼さんと十二庵がたくさんの人と幸せになっていくのを、おいしいお豆腐と一緒に楽しみに味わっていきたいです。

[暮らしの教室から 3つの質問]

■浅沼さんのターニングポイント
たまたま行きつけのダーツバーのオーナーが豆腐屋をやるって言いだした瞬間。
その時にたまたま居たお豆腐屋さんの娘と出会っていなかったら豆腐屋になっていなかったかも。

■幸せのモノサシ
周りにいる人達が笑っていられること。お客さん、従業員、農家さんなど取引先、友だち…人が笑顔になれるお手伝いをすることが僕にとっての一番の幸せ。

■これから望む社会
チャレンジをみんなで心から応援する社会。僕はそういう社会にするためのお手伝いをしたい。

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浅沼 宇雄(湯河原十二庵 代表)

2009年10月、食の安心・安全をコンセプトに豆腐屋『湯河原 十二庵』を独学にて開業。 消費者に直接、自分達の手で販売することをテーマに小売中心で移動販売、出張販売、催事販売などを展開。 また、カフェなど今まで豆腐屋となかなか繋がらなかった業態への挑戦も。

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